ビデオゲーム、ことロールプレイングゲームなどのジャンルでは、ゲーム中にさまざまな文章が表示されます。大規模なゲームであれば、その文章量は膨大なものとなります。そして、本に誤植があるように、ゲーム中の文書にもやはり書き間違いがあります。
特に、スーパーファミコン以降のゲームではメッセージに漢字が使用されることが多くなり、それにともない送りがなの間違いや、日本語入力ソフトウェアの「誤変換」による誤字が見受けられるようになりました。
この文書では、このようなゲーム中に表示されるメッセージの書き間違いを集めてみました。
「よい、よい。 それよりも…話しがある。 急がねばならんのだ…(『ファイナルファンタジーV』ギードのほこらでの賢者ギードのせりふより)
クルル様は、このモーグリと、 話しができるの。 ふしぎな力ね。(『ファイナルファンタジーV』バル城にいる女性のせりふより)
いらっしゃい。 あいにく兄は寝てますの。 私がお話しをうかがいますわ。(『ロマンシング サ・ガ3』ランスでのアンナのせりふより)
さあ、 お話しは終わりだ。 外ヘ行って遊べ!!(『ロマンシング サ・ガ3』ピドナ旧市街でのシャールのせりふより)
非常にありがちな「はなしし」のミスですね。「話し」と表記する場合は、動詞の「話す」が活用して連用形になった場合です(例: 話します)。上記の例での「はなし」はいずれも名詞であると思われますので、通常は「話」と表記するべきです。
やっかい者は 始末してくれたようだな。 約束どうり協力したいんだが そんな危険な仕事を 引受る奴がいない‥‥(『ロマンシング サ・ガ2』アバロンでのスパローのせりふより)
ハロルド王の命を奪い、 トーマをあやつって、 この国を思いどうりに しようというつもりね!(『ロマンシング サ・ガ2』ダグラスでのソフィアのせりふより)
「どうり」ではなくて「どおり」ですね。これもありがちです。
ちなみに、「道理で〜なわけだ」などという場合の「道理」は、ひらがなで表記すると「どうり」となります。「どおり」を「どうり」と間違って書く人は少なくないのですが、これらを混同しているのが原因である場合も多いのではないかと思います。
ゴゴ「ま まいった! 「そのとうりじゃ! 「わしが 何もしないのだから 「それをまねする! 「つまりは 何もしなければ 「よいのじゃ! 「これぞ ものまねの ごくい! 「めんきょかいでんじゃ! 「さらばじゃ!!(『ファイナルファンタジーV』沈んだウォルスの塔でのものまねしゴゴのせりふより)
「とうり」→「とおり」ですね。「どうり」と並んで、これもありがちです。
もうー みんな、本は読みっぱなし 出しっぱなしで、しょうがないん だから…… かたずけるの手伝ってくださいよ。(『ファイナルファンタジーV』サーゲイト城図書館にいる女性のせりふより)
「かたずける」→「かたづける」ですね。この場合は、「かた」と「つける」の二語の連合によって「つける」が濁ったケースなので、「かたづける」が正しい表記となります。
オレ達を海賊よばわりするとは ケンカを売りに来たのか! いいだろう 受けて立ってやるぜ! 後でほえずらかくなよ! 連れて帰れ!(『ロマンシング サ・ガ2』ヌオノでのエンリケのせりふより)
「ほえずら」ではなくて「ほえづら」でしょうね(「つら(面)」→「づら」)。これも「二語の連続」で濁ったパターンです。
いつかまた「無」が世界をつつむ時 人々に4つの心あれば 光りは生まれん(『ファイナルファンタジーV』エンディングより)
「はなしし」と同じ構造の間違いですが、「はなしし」ほど頻繁には見かけませんね。
これにたいし はんらんぐんは フィンおうこくで たちあがったが ていこくの そうこうげきにあい しろを うばわれ へんきょうのまち アルテアへと てったいしなければ ならかった(『ファイナルファンタジーII』オープニングより)
ゲームを起動するたびに見ることになる画面にこんな間違いがあってはまずいでしょう。(^^;
聖アジョラの生きていた時代にも 似たような危機が訪れた。 イヴァリースの派遣を狙うランベリーの王が 魔神を召喚し世界を混乱に招いた。(『ファイナルファンタジータクティクス』ゲルモニーク聖典より)
言うまでもありませんが「派遣」→「覇権」ですね。おそらく、日本語入力ソフトウェアの「誤変換」による間違いでしょう。
神殿騎士ヴォルマルフ 「これはいい! 思いがけぬ処で出会うとは…! 「あと百年は必要だと思ったぞ!! まさか、貴様がそうだったとはな…! アルマ 「やめてッ!! 離してッ!!(『ファイナルファンタジータクティクス』リオファネス城でのヴォルマルフのせりふより)
アルマのせりふ中に「離して」とありますが、この場合は「放して」を使うのが適切でしょう。参考までに、新明解国語辞典での語釈を以下に示します。
- はな‐す【離す】
結んで・(縛って)あったりくっついていたりとじてあったりする物を、別別にする。「解き――/切り――/つなぎ目を――/目を――〔=(油断して)他の物に視線を移す〕/目が離せない」
その物との間に、隔たりを置く。「一メートル離して植える/机と机とを――〔=遠ざける〕/本を手元から離さない/五メートル引き――」
- はな‐す【放す】
握ったりつかんでいたりするのをやめる。「ハンドル(から手)を――/手――(バナ)す」
つかまえていた動物・捕虜などを、自由の身にする。
〔料理で〕汁などに入れて、散らばらせる。「ミツバを――/ナスを水に――」
- 〔接尾語的に〕
……(し)たまま、あとのしまつをしないでほうっておく。「植えっ――(パナ)しにする/見――」
……の状態を続ける。「勝ちっ――(パナ)す」
(『新明解国語辞典』より)
わが じょうおうさまに こわいものなど ありませぬ。 まおうといえども その うつくしさのまえに ひざまづくでしょう……。(『ドラゴンクエストIII(ファミリーコンピュータ版)』イシスの城にいる侍女のせりふより)
1つのせりふの中に2つも気になる箇所があります。まず、言うまでもありませんが「女王」の読みは「じょおう」です。このせりふに限らず、ファミリーコンピュータ版のドラゴンクエストIIIでは「女王」という単語がことごとく「じょうおう」と表記されています。イシスの他にも「りゅうの じょうおう」の城でのせりふにこの表記が散見されます。
次に、現代かなづかいでは「ひざまづく」は「ひざまずく」と表記するのが普通でしょうね。まあ、「ひざまづく」と表記したくなる気持ちはわからないでもないのですが。
なお、スーパーファミコン版とゲームボーイカラー版ではメッセージに漢字が使用されていて、以下のようになっています。「ひざまづく」は変わっていませんね。
わが 女王さまに こわいものなど ありませぬ。 たとえ 魔王といえども その 美しさの前に ひざまづくでしょう……。(『ドラゴンクエストIII(スーパーファミコン版)』イシスの城にいる侍女のせりふより)
わが 女王さまに こわいものなど ありませぬ。 たとえ まおうといえど… その うつくしさの前に ひざまづくでしょう……。(『ドラゴンクエストIII(ゲームボーイカラー版)』イシスの城にいる侍女のせりふより)
しかし、スーパーファミコン版・ゲームボーイカラー版での遊び人の「遊び」の中には以下のようなメッセージもあります。こちらでは「ひざまずく」と表記されています。
○○は ムチと ハイヒールをとりだし じょおうさまを きどった! ○○「わたしは じょおうさまよ! さあ わたしのまえで ひざまずきなさい!(『ドラゴンクエストIII(スーパーファミコン版)』戦闘中の遊び人(女)のせりふより)
○○は ムチと ハイヒールを とりだし じょおうさまをきどった! ○○「わたしは じょおうさまよ! わたしのまえに ひざまずきなさい!(『ドラゴンクエストIII(ゲームボーイカラー版)』戦闘中の遊び人(女)のせりふより)
その後改めて調査したところ、昭和61年7月1日内閣告示第1号の『現代仮名遣い』によれば、「ず」が本則であるが「づ」でもかまわないということが判明しました。現代かなづかいの「ぢ」「づ」のつづり方は、やたら例外が多くて複雑ですね(言い訳)。
なお、次のような語については、現代語の意識では一般に二語に分解しにくいもの等として、それぞれ「じ」「ず」を用いて書くことを本則とし、「せかいぢゅう」「いなづま」のように「ぢ」「づ」を用いて書くこともできるものとする。
- 例
せかいじゅう(世界中) いなずま(稲妻) かたず(固唾) きずな(絆) さかずき(杯) ときわず ほおずき みみずく うなずく おとずれる(訪) かしずく つまずく ぬかずく ひざまずく あせみずく くんずほぐれつ さしずめ でずっぱり なかんずく うでずく くろずくめ ひとりずつ ゆうずう(融通)
(昭和61年7月1日内閣告示第1号『現代仮名遣い』より)
この村に ご主人の薬を とりにきたってゆうんで 寄ってもらったんですよ。(『ドラゴンクエストV』サンタローズでのサンチョのせりふより)
口語では「いう」を「ゆう」と発音することが多いのですが、「ゆう」と表記することはあまりありません。口語風の感じを出す表現なのかもしれませんが、「いう」を「ゆう」と表記しているせりふはこれ以外に見当たりません。チェックし忘れて残ってしまったのでしょうか。
なんと まあ。 メイドが 本物のじゅたんを かくしとったのかい。 そもそも ひ弱なニコラに 英雄さがしなど ムリなんじゃから これで よかったんじゃ。 だまされて いたとはいえ ニコラは メイドに感謝すべきじゃよ。(『ドラゴンクエストVII』メザレの教会にいる老婆のせりふより)
「じゅたん」→「じゅうたん」ですね。
われら 神の兵の 神殿へ ようこそ おいでくださいました。 つい 数年前 われわれが そして 世界中の民が 神の 復活を よろこび合ったというのに… まさか 魔王が 神の名を 語っていたとは!(『ドラゴンクエストVII』天上の神殿にいる兵士のせりふより)
「語って」ではなくて「騙って」でしょう。これも「誤変換」による間違いでしょうね。いちおう参考までに、新明解国語辞典での語釈を以下に示します。
- かた‐る【語る】
一つの話として、相手に伝える。「一様に――/声高に語られる/語って聞かせる」
自分の意志(見解・思想・解釈)を相手に伝える。「決意の程を――/ひざつき合わせて語り合う」
ある事実が、そのことを端的に示す。「失業者の急増が――不況/震災の恐ろしさを如実に――瓦礫(ガレキ)の山」
節をつけて、(物語を)朗誦(ロウショウ)する。「浄瑠璃(ジョウルリ)を――」
- かた‐る【騙る】
いかにももっともらしい理由を述べて金や物を巻き上げる。「金を騙り取られる」
悪事をたくらんで、他人の名を利用する。「人の名前を騙って悪事をはたらく」
(『新明解国語辞典』より)
このゲームのなかで いちばん たいくつなのは このアドベントのさばくなんです。 でも ほんとに ぢらいには きをつけてね。(『MOTHER』アドベント砂漠にいるラクダのホネのせりふより)
一般的に「地雷」をひらがなで表記したときのつづりは「じらい」ですね。しかし、これは「ぢらい」と表記したくなる気持ちもわかります。例えば、「ほえづら(吠え面)」の「づら」は、「面(つら)」がもとになっているので「ず」ではなくて「づ」なのです。この規則に従うと「地雷」は「ぢらい」とつづるのが正しいわけですが、「地雷」とか「地震」の場合は例外で、「じらい」「じしん」と表記します。
と思っていましたが、上の段落の記述(「ぢらい」とつづるのが正しい)は実は間違っていました。「地」という漢字には、もともと「ち」という読みと「じ」という読みの2つがあり、「地雷」の「地」は「ち」が濁ったものではなく、もともとの読みである「じ」をそのまま使っているので、「じらい」とつづるのが正しいようです。参考までに、昭和61年7月1日内閣告示第1号の『現代仮名遣い』での該当箇所を以下に示します。
〔注意〕次のような語の中の「じ」「ず」は、漢字の音読みでもともと濁っているものであって、上記(1), (2)のいずれにもあたらず、「じ」「ず」を用いて書く。
- 例
じめん(地面) ぬのじ(布地) ずが(図画) りゃくず(略図)
(昭和61年7月1日内閣告示第1号『現代仮名遣い』より)
ギルガメッシユ「レナ! 「いつまでも 動物をいたわる 「やさしさを わすれるな(『ファイナルファンタジーV』次元のはざまでのギルガメッシュのせりふより)
イベント中の一連のメッセージで、ここだけはなぜか「ギルガメッシユ」という表記になっています。
ここは さばくのくに イシス。 いまはなき フアラオおうの つくったくに です。(『ドラゴンクエストIII(ファミリーコンピュータ版)』イシス城下町にいる詩人風の人物のせりふより)
「フアラオ」というのは「ファラオ」のつもりなのでしょうね。おそらく容量不足やプログラムの都合上、「ァ」の文字が使えなかったのでしょう。なお、スーパーファミコン版・ゲームボーイカラー版では「ファラオ」となっていました。